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────風邪をひいた。 つい先日、イブカが風邪をひいたのだが、モロにその風邪が伝染ってしまったアルだった。 しかも当人は、アルの看病が良かったのか、はたまたその若さ故か、早々に直って今はけろりとしている。 むしろ、うつされたアルの方が何日も寝込むほどに重症だった。 なによりこの歳になると、熱が辛い。 若い頃よりも────などとうっかり言うと「今も十分若いわよ!」とサラ辺りから引きつった笑みとともに叱られそうだが────平熱が低くなったせいか、以前なら大したことはないと思えるくらいの発熱でも、関節が軋んで、動くことすらかなわない。 そんな訳で、先日とは逆に、アルがベッドの中、イブカが看病(?)というちょっと奇妙な状態になってしまっていたのだった。 ────でもこんな時、同居人がいてくれるのは本当に有難いな…。 アルは以前、一人暮らしを始めたばかりの頃に風邪をひいてしまった時の状況を思い出し、苦笑いした。 ────あの時は、ウルフがお見舞いと称して転がり込んできて、横で酒盛りを始めたんだっけ…。 チャイムの音に、セールスか何かかと最初は居留守を決め込んだが、それでもしつこく鳴り続ける音に、気怠い身体を引きずって、不機嫌になりながらもドアを開けた。 そこに腐れ縁の親友の顔をみとめた時、どんなに感激したことか…。 その後は、一瞬でもウルフを信じた自分が悲しくなるくらいの有様だったと記憶している。 むしろ一層酷くなって更に寝込んだというおまけ付きだ。 こんなに酷いものはあの時以来かもしれない…熱に浮かされ、麻痺した思考で、とりとめもなくぼんやりと色んな事を考える。 ふ、とアルが視線を白い天井からはずすと、赤い服の小柄な人物が、ずっと何をするでもなく横のソファに座っているのに気付いた。 ────いつもなら、自分の用だけ済ませたら、割とすぐに部屋に戻っちゃうのにな…。 ────もしかして一応、心配してくれているのかな? ちょっと嬉しくなって、小さく口元に笑みを浮かべると、時折こちらを伺っていたらしいイブカが、それに気付いたように視線を逸らした。 そしてそのまま、不意に立ち上がって、どこかに消えてしまった。 ────あれ…もしかして…怒らせた…のかな? イブカは時に自分の思考を読んでいるんじゃないかと思えるくらい、鋭い。 周りに言わせれば、自分が分かり易すぎる、という説もあるとは思うのだが、それを差し引いても尚、鋭い、という感覚があった。 ────まさか、あれで機嫌を損ねて、どこかに出かけてしまった…? イブカの場合「出かける」というのは、ごく近くの、歩いていけるような場所から世界各地まで含まれるので、いつだって気が抜けなかった。 ちょっと不安な気持ちになってきたアルを安心させるように、程なくして戻ってきたイブカが無言でマグカップを差し出す。 「あ…有難う、イブ…これ…?」 それは紛れもなく、先日自分がイブカに作った、親譲りのはちみつ入りレモン湯だった。 「…この間作ってくれた奴…俺も、気に入ったからな〜」 言いながら、照れたように視線を逸らせるイブカが、いつもよりも数段「可愛く」思えて、アルは柔らかく微笑んだ。 本当、自分は単純だなあと思う。 でも、こういう時は素直に、イブカがいてくれることが嬉しい。 「お、なかなかうまく作れたね」 一口飲んで、その味の再現の正確さに、ちょっと驚いていた。 「けっ、俺を馬鹿にすんなよ!アルよりもいつもうまいモン食ってるから、舌は確かだぜ〜」 皮肉たっぷりにやり返すイブカの自信が示すとおり、紛れもない「ワトソン家の味」だった。 「美味しいよ。これを飲めば早く直りそうだ…有難う、イブ…本当に君がいてくれて良かった」 ごく自然に口を衝いて出た言葉。 それがイブカにとって、どれほど価値のある言葉だったか、言った本人は微塵ほどにも気付かない。 …それがアルの特質でもあるのだが。 イブカは、本当に心から誉められた事が嬉しく、なぜだか誇らしい気分になった。 こんな気分は、小さい頃、祖母に誉められた時に感じた以来だった。 ────まったく、アルにはかなわないぜ…。 本人には気付かれないように、小さく苦笑いした。 水分を取って身体も落ち着いたのか、程なくしてアルは気怠い眠りの中へと落ちていった。 夢なのか現実なのか境目が掴めないような、浅い眠り。 ────寒い。 不意に肩口にひんやりとした空気があたる感覚を覚え、アルは反射的に寝返りを打とうとした。 …が、それは、自分が動こうとしているのと逆方向に引かれる感触に阻まれた。 引き寄せようとしている掛け布団の重さに、アルは器用に身を捻って僅かに身を起こした。 ────あ、イブ…! 見ると、イブカがベッドの横にイスを置き、上半身をこちらに乗り出すような形でうつぶせになり、腕を枕にして気持ちよさそうに寝息を立てていた。 ────まったく…こんなことまで真似しなくていいのに…。 先日、自分がイブカの看病をした折、横にイスを持ってきて本を読んでいたのを真似しているうちに、眠くなってしまったのだろう。 年齢以上に大人びて見える、微かな影を含んだその双眸が閉じられて、今はむしろ、同じ年頃の子供より幼く映るから不思議だ。 「こんなところで寝てしまったら、また風邪ひいちゃうよ…」 苦言混じりにぶつぶつと小さくそう呟きながらも、自然に口元が緩んでしまう。 普段なら容易くは触らせて貰えないであろう、イブカの癖の強い黒髪を、ふんわりと撫でた。 なぜだか起こすことがためらわれたアルは、手近にあった自分のカーディガンをイブカに掛け、なんとかもう一度布団に潜り込んだ。 ずいぶんとイブカの方に引っ張られてしまった掛け布団は、もはやアルの身体全部を被うことが出来ない状況だったが、それでもアルの気持ちは暖かかった。 …それは、また上がってきた気がする熱のせいでもあるかもしれないけれど。 なんだかいつもながら尻切れトンボです〜ι 先日書いた話の「別の話」です(笑) ずっと書きかけで放置されていたのをやっとアップι しかし、小説2本とイラストまで描いてしまったりして、風邪ネタ引きずりまくり(笑) 最初の小説を書いた直後に、うっかり自分も久々に風邪ひいたりしてしまったせいもあるのだと思うのですが…(苦笑) 昼夜問わず寝込んでいたら、普段は結構好き勝手なところで過ごしているウチの猫が、ず〜っと布団の上でまるまって寝てるんですよ。 そんな時って「もしや心配してくれてる…?」とかって、いつもより可愛く思えたり(笑) やっぱり重くて、掛け布団が引けなくて困りましたが(苦笑) …そんなイメージで書きました(笑) 前回まで「イブ」で書いていたのですが、今回から「イブカ」としてみました。 ネット小説に合わせた方が、文章上で見慣れている分、違和感が少しでも減るかと思いまして…(ただでさえ性格に違和感有りまくりなウチのイブ公なので…苦笑) 私はゲームから入った人のせいか、どうも「イブ」の方がしっくりくる感じがするので(アルがいつも「イブ」と呼んでいたせいか…?アルがイブのことを「イブカ」と呼ぶのは、私が知りうる限り、ゲーム中では1回のみですし…)文中でうっかり「カ」が抜けていたらスミマセンι 気付いたら後でこっそり直しておきます(笑) チャットでもちょろっと呟いたのですが、デジホなパラレルアドベンチャーゲームを作ろうかと画策中…って、本当に実現するのやら…?ι(苦笑) 年内は色々あってちょっと厳しいので、来年の頭頃位には作り始めようかと…(謎ですが…ι) ・タイトルの由来・ …そのまま(苦笑) 風邪話の別の話、という意味で(ひねりなしι) Digital Holmesはアークシステムワークスの作品です。 (C)1999〜2001 ARC SYSTEM WORKS CO.,LTD. (C)1999〜2001 Koichi Noguchi |